242 マンガ編集者狂笑録 長谷邦夫
図書館より。水声社。
不思議な本である。漫画編集者のドキュメンタリに見えて、事実を基にしたフィクションである。おじさんが昔の記憶をつなぎ合わてつくった、ちょっと陶酔と郷愁の物語。長谷川町子が初対面の編集者に「おさかなの名前の漫画を描きたいの」と言ったなんて、できすぎである。
*三洋社は水木しげるの原稿を紛失するなどの事故が相次ぎ、解散した。
*加藤美紗子は手塚治虫に映画館に誘われた。バンビをスケッチするから、懐中電灯で照らして欲しいというのだ。手塚はスクリーンだけを見つめ、二度の上映でスケッチをし、三度目は「ありがとう」と言って画材をしまった。
#(手塚は)ペンを走らせるスピードも、それまで彼女が見てきた、多くの先生方の数倍の速さとしか思えなかった。
#「やあ! 坂松君」
#「先生、松坂でっせ」
#「逆立ちしているから松坂君だよ」
#「あは……」
#「これがぼくの疲労回復運動なんだ」
#(手塚)「立ちポーズなら原稿を逆さまにしても描けるんだ」
#元アシスタントの活躍を祝福し、見守るなどという大所高所的な考えなど、手塚にはまったくない。(『W3』『宇宙少年ソラン』事件)
#「ぼくの家はどえらい貧乏やったから、子供のときにボールもバットも買うてもらえんかったんです。だから野球のことが全然わからへんねん」(『巨人の星』を依頼された川崎のぼる)
#「(ちばてつや)先生にバットとボールを購入していただいて、実際にぼく(宮原照夫)とトレーニングをしながら、あの漫画を描いたんですよ。」(同席していたのは内田勝)
運動をしたことがなかったちばがこれ以来スポーツに目覚め、ストレスからも開放され、テニスや草野球に熱中するようになったのは有名な話である。『赤い虫』だったかな。
しかし残念なのは装丁だ。「ドッカーン」「ポワーン」とオノマトペがちりばめられ、下品だ。権利関係で無理に違いないが、『カムイ伝』『8マン』『リボンの騎士』あたりが並んだら壮観だったであろう。
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