422 貧困なる精神 Z集 本多勝一
図書館より。毎日新聞社。副題、自民党以外に投票せよ、もし佐川疑獄に日本人が本気で「激怒」したのであれば。
いきなりZ、と思うが、これは『朝日ジャーナル』が休刊し、『毎日グラフ』に連載が移ったため。Z、Y、X…と逆回し。
副題のように「投票せよ」というスタイルはもうプロパガンダだ。そこは流して読む。
建設族のドン、金丸信と北川国松環境庁長官の電話。
*金丸信「長良川河口堰を早く造れ」
*北川「閣議決定は20年前。当時環境庁はなかった。環境庁の長として反対します」
*金丸「何を言っとるか!」
*北川「時代に即応しない政治では国民はついていきません。恫喝には屈しまへんで」
「欠陥文をどう直すか」より。
#鳥海山は、月山とともに、東北きっての名山である。昔から信仰の山とされているが、月山のように白装束の登山者はほとんどいない。
これを直して、というお題です。
この本が盛り上がるのは巻末60ページである。まず『本の「装丁」とは何か』。このジャンルは珍しい。デザイン重視で題名や著者名が読めない本を実物写真を上げて糾弾する。
#書店では横づみにされることなど短期間かゼロなのだから、背文字こそ重要なのに
「本当にうまい酒」では「一升酒でクダをまいていた」「(いい酒は)ラベルに採点してスクラップ帳にはりつけ」なんて意外なマニアらしさを見せる。
#大々的に広告している有名な酒に、本当にうまい酒など一つもない、と。
ただひとつ銘柄が出るのは、和歌山の『羅生門』だけ。
「中村八大氏への共感に便乗してカラオケの馬鹿馬鹿しさを書く」では、歌い手がリズムを持たず、機械のリズムに合わせることを強制されることを「いけない」とする。得意の「主体性なき民族」と呼ぶ。伴奏は歌手を助けるものだと。
#歌うこと自体は、私もけっして嫌いではない。いやむしろ人並み以上に好きな方だと思う。小学生の頃は音楽の先生に壇上でよく歌わせられたし、高校山岳部の会報で「山の歌」特集号を編集したこともある。大学では合唱団にいたし、山の歌の作詞・作曲もした。外国に出たときなどは現地で歌の交歓もする。
「還暦の穂高岳登山」では若い女性との邂逅がある。
#「こっち(のリュック)は軽いから交換して担いであげようか」
#「だめー。クスンクスン」
文字にするとなんか変。
と、ほのぼのさせておいて、このごろは山小屋荒らしが出るのだという。雨戸を破壊し、ガスストーブ、バンダナ、バッジを盗み、食料も荒らされ、布団は霜でベタベタ、開けっ放しで雪が吹き込み積もって後始末が大変。それは登山ブームの韓国から来た山男の可能性もあるという。
そして注記。
#この問題はのちに日本山岳会が韓国山岳会と競技を重ねた末、双方の慣習やルールなどに理解が不足していたことなどを認識した上で改善につとめることになった。
え? 山小屋を荒らしていいのが韓国の慣習やルールなのか。
以上4本が連続して読めるのである。すばらしい。
そして続けて山歩きや冒険の話。京大探検部の写真で、今西錦司、梅棹忠夫、川喜田二郎などと一緒に写真に収まっているのに驚く。
#小梨平にはいるとヒガラがあちこちで何羽もさえずり、そのあいだにエゾムシクイの「ヒーツーキー、ヒーツーキー」という澄んだ声が。ミ・レ・ドに近い音階をくりかえす。そこへオオルリが、まろやかな木管楽器の音質による独奏で加わった。天然カラマツを優占種に、シラカンバ・コメツガ・ムシカリなどがまじる小梨平の朝は、オオルリ・ヒガラ・エゾムシクイの三種がひっきりなしに歌を競いつづけるのだが、いきなりとびこんでくるのがホトトギス、耳をすますと遠く二ヵ所でコマドリが鳴いている。
すばらしい文章である。こんな文章を書けるような人になりたい。これが教養か。意外と平仮名が多い(#引用は仮名・漢字まで正確に引用しています)。
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