437 女流棋士 高橋和
図書館より。講談社。
表紙が可愛い。これを撮ったカメラマンは生涯自慢してもいい。愛くるしい笑顔。
四歳のとき、交通事故に遭う。仕事が忙しい母は娘を公園で遊ばせておいた。あとで迎えに来ると。しかしほかの子が帰り寂しくなった娘は、禁じられていた道路を横切ってトラックに足を轢かれてしまう。足を切断するかもしれないという重症。
そんななか覚えた将棋。中学生で女流プロに。棋士の実力よりも「かわいこちゃん」「リカちゃん人形」として扱われる不満。十歳年上と恋もした。何度も手術を受けた。対局前は神経がおかしくなった。
そこまで赤裸々に書いてくれたことに感謝すら覚える。書きにくいこともあったろうに。
読み終わったあとに感じたのは放り投げられた感覚だ。伏線が回収されていない。著者が悪態をついた対象は、フォローされずそのままだ。心の整理ができていないのであろう。ただ、母親への感謝があるばかりである。
著者は子供への指導がしたいと女流を引退したようだが、勝負の世界に耐え切れなかったのかもしれない。
#となりのベッドからは笑い声が聞こえてきた。あきこちゃんがお母さんと楽しそうに、ネコのぬいぐるみでキャッキャと遊んでいる。その声の主は小児ガンだ。命の心配をしなくてもいい私は、おそらく幸せの部類に入るのだろう。
#「ぱらしゅーと?」
#「ほら、よく見てみな。上から人が落ちてくるだろ。それを下でキャッチするんだ。こうやって左右のボタンを押しながらね。どうだ、やってみるか?」
著者とほぼ同世代の私としては、こういうギミックが楽しい。
*女流育成会では、お昼になると石田和雄先生(九段)を先頭にお寿司屋さんにぞろぞろみんなで向かう。バブルの時期でもあったからだろうか、毎回お寿司をごちそうになった。
#「将棋も指せ、しかもこんなにおいしいお寿司を食べられるなんて……プロ棋士っていいなぁ」
#そんな理由でプロを目指したと言ったらしかられるかもしれないが、これが私の本心だった。
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