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1190 発達障害の子どもたち 杉山登志郎

 図書館より。講談社現代新書。

 すばらしい。専門的であるが、ぐいぐい読ませる力強さがある。後書きにもあるように実際のケースを(多少改変して)積極的に詳述する方針と、思い切りのいい喩え話が効果を上げている。
 発達障害は治らないのか。子供は無理をしても普通学級がいいのか。
 これに強くノーを唱える本である。

#小学校三~四年の時点で、カリキュラムに抽象的なイメージ操作を用いる課題が登場し、勉強に関するハードルが急に高くなるのである。
 接続詞、分数、小数など。
#これを「九歳の壁」と呼ぶこともある。

*境界知能の重要性の一つは、その多さである。計算上は14%の子どもがこの境界知能の範疇に入る。小学校中学年のいわゆる九歳の壁の前後に、良い教師にあたった境界知能時はこの壁を突破し、そのような教師に恵まれなかった自動はここでハードルに捕まり、知能自体も小学校高学年には知的障害のレベルに下がっていたのである。

#語頭発生(たとえば「ぎゅうにゅう」を「にゅう」、「みかん」を「み」とのみ言うなど)(自閉症)

*高等動物は離巣性と就巣性に分けられる。離巣性の代表は馬や牛。就巣性の代表は猫や犬。猿類は離巣性だが、人は究極の就巣性である。たかだか独歩に一年かかる。自立には二十年かかる。
*もう一つの究極の就巣性は鳥である。高等動物なのに卵生である。それは飛ぶために体重を減らさねばならず、妊娠できないからである。
*もう一度人を振り返れば、人は大きな脳を持っている。これ以上脳が大きくなれば産道を通れない。そのため生理学的早産となる。

#知的な能力が低いほど情緒的にも不安定になりやすい(精神遅滞)

*不安定で怖い世界から自分を守るために、自閉症の幼児がとる戦略は何かというと、自分で一定の安定した刺激を作り出して感覚遮断を行なうという方策である。

#非行の事例においては、学習の遅れを伴うものが多く、特に国語力の不足が内省力の不足に直結し、悩みを保持することができず非行に走りやすい傾向を生む(境界知能)

*知能指数は固定的なものではなく、その日のコンディションでプラスマイナス15前後は変動してしまう。

#アスペルガー症候群は、自閉症の三症状である、社会性の障害と、コミュニケーションの障害と、想像力の障害およびそれに基づく行動の障害のうち、コミュニケーションの障害の部分が軽微なグループである。(略)興味の著しい偏りやファンタジーへの没頭があり、時には儀式行為を持つものもある。また非常に不器用なものが多いことも特徴の一つとされる。

*(アスペルガーは)教師の指示に従わず、興味のある授業にのみ参加する。ことばは達者で難しい語彙を用いるが、表面的。比喩や冗談の理解が困難。文脈から理解できず、人の気持ちを読んだり人の気持ちに合わせて行動できない。いじめの標的となることが多い。われわれの調査では実に八割が深刻ないじめを受けていた。

#心の理論とは、他の人の信念とか考えとかを把握する認知能力のことである。(略)
*他の人の信念と事実はしばしば異なる。このようなテストがある。始めに子どもにチョコレートの箱を見せる。開けてみると鉛筆が入っている。鉛筆を戻して、そこで別の人物が登場する。子供に「今来た○君は、箱の中に何が入っていると考えると思う?」と尋ねる。

#普通のドリルをよく見ると、様々な不要な情報が盛られている。「二学期のまとめ、1、次の質問に答えましょう(一題五点)」などなど。こういったいわば雑音を全て削除する。そして計算の問題だけを提示する。すると不思議なことに、ドリルではまったくできなかったこの半数が、課題に取り組めるのである。(ADHD)

#愛着行動とはもともとは乳幼児が不安や恐怖に陥ったときに、養育者との交流によってその不安をなだめる行動である。
*①定位行動 愛着者にじっと視線を注ぐ
*②信号行動 愛着者にしきりに泣き声を上げたり声をかけたりする
*③接近行動 愛着者に後追いをしたり、しがみつこうとする
*愛着行動は零歳代後半から始まり、二~三歳に第一反抗期をもって完成する。この時期になると目の前にいなくても愛着者のイメージを想起するだけで不安に駆られることはなくなる。
#この愛着の形成に支障が生じた状況が、反応性愛着障害である。子ども虐待においては、安心を与えてくれるはずの養育者から被害を受けるのであるから、重大な情緒の混乱を来すことはご理解いただけるであろう。
*愛着形成に決定的な問題が生じると、子供は不安な時に自分を慰め、安心させる術を持たないままに成長するのである。(虐待)

#心の理論通過に前後して激しいいじめを受けた広汎性発達障害の子どもたちは、迫害体験があるために、対人関係のあり方を被害的に読み誤ることを繰り返すようになるのである。

#被虐待児は、一般的な生活の練習が不十分であることが少なくない。(略)さらに被虐待児は(略)学習の遅れが非常に多い。注意の障害などの脳の働きの問題もあり、それに加えて学習の習慣がないことが要因となっているのであろう。この問題が深刻なのは、特に国語力の不足が内省の不足をもたらし、他動に拍車をかけるという悪循環を作るからである。

*脳の神経のネットワークは五歳で完成する。その後「神経の剪定」と呼ばれる現象が起きる。使用される経路は残り、使用されない経路は消えていく。これは十歳で終了する。この神経の剪定にともなって、ミエリンという物質が軸索を覆い、絶縁が施される。
*絶縁がまだの幼児の脳は、ダメージを受けても他の部分で復活しやすい。また一つの細胞の興奮が周囲に漏れやすい。発熱に伴う痙攣が生じやすいのはこのため。

#間食は子供にとっては重要な栄養源であるので、食事に準じる形で、時間を決め、着席をさせて、さらに取り分けて与えることも基本であろう。

#広汎性発達障害の罹病率は二・一パーセントである。

*「何が何でも通常学級」と言われる保護者の方は、自分がまったく参加できない会議、例えば外国語の会議に、45分間じっと着席して、時に発言を求められて困惑するといった状況を想像いただきたい。

*非行生徒の生徒指導に辣腕をふるった管理職がアスペルガー症候群やADHDを「わがまま」と把握するケースが散見される

*「トラブルがなかったこと」を事細かに園でも褒めてもらうように依頼した

*(被虐待児は)注意の障害など脳の動きの問題もあり、それに加えて学習の習慣がないことが要因となっているのである。この問題が深刻なのは、特に国語力の不足が内省の不足をもたらし、多動に拍車をかけるという悪循環を作るからである。

#集団に入ることだけで、子どもたちに大きな成長が期待できるためには条件がある。その子どもが、周囲の子どもたちの行動を参考にして、自分の行動を修正しようという気持ちがあることが必要なのだ。

#学校の選択にあたって最も大事な原則はほぼ一つと言ってよい。それは授業に参加できるかどうかということである。

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