図書館より。講談社漫画文庫。
西暦2000年、著者漫画家30年の節目の年にあの名作を文庫本化。再編するにあたって著者が1巻に持ってきたのはやはり「アユ釣り」。第1話「水のプリンセス」。三平が釣り大会に「じいさま」と優勝・準優勝を分け合い、イチャモンを付けてきた三人組を返り討ちにして、三人組はもうこの川に来られないはずが、「条件は何だったかな」とすっとぼけるこの爽快感。素晴らしい。ほか、若い男女の悲恋を描く「ゴロ引きゴンベ」、そしてみなみらんぼうの歌が「胸にツンと突き刺さり」描いた「少年の夏」ほかを収録する。
やたらひょうきんなアバ(母さん)と目が「3」の父さんは単なる脇役だと思っていたのだが、まさかユリッペのご両親だったとは。
優勝カップには「県知事杯」「県水面漁連杯」があり、三つ目の「ヤグチ杯」だけ書き文字ではなく写植である。きっと実名だったのであろう。
今年は漫画家50年になる。
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2020年11月25日、とんでもないニュースが飛び込んできた。矢口高雄先生が亡くなっていたのだ。膵臓がん。11月20日。81歳。
まとまらないので思い出を書く。
本棚には『ボクの手塚治虫』がある。帯には「心をこめて手塚先生の霊前にささげます」とある。手塚先生にファンレターを出したら年賀状が返ってきたエピソードが忘れられない。
#手塚治虫って人は誠実な人だなや こんただ山奥のおめえにまで返事をくれたなんて……
アバの台詞(アバ=母さん)。
#がんばってこれからもいい作品を描いてください
#矢口くんきみはホントにまじめで誠実な人だネ……
#絵を見ればわかりますよ…
#とにかくきみの絵はデッサン力もすばらしいけど…実に美しくて上品だ
#カーッ そんなにほめられてどうしよう
小学生の頃体育館で映画『マタギ』を見た。「釣りキチ三平の矢口高雄だ!」と叫んで「うるさい」と怒られた。
以前秋田市に三平のバスが走っていた。麦わら帽子が割れて魚になるのが痛そうだなあと思っていた。三平の頭の中には魚がいっぱいつまっている、という意匠だそうだ。しかし構図の上手な人だなあ。
覚えているシーン。軍艦島みたいな名前の島でキャスティング大会をしてサザエで4センチバックして準優勝だった話。ライバルはシャークの仁(じん)。スイング投法という投げ方を覚えた。十五段先生。
魚のいないところに魚を運ぶ話。大男が顔に虫がたかって落下したけれど背負っていた桶のために助かった。
一平じいさんが亡くなる話。「忌中札」という言葉を覚えた。むしろ人が亡くなることを漫画で教わった。泣きブランコ。
ラストは「もっと魚を釣りてえだ~っ」の百万人の釣り行進。
ヒョーッ。ケッヘッヘ。ホイ!
おれは釣りキチ三平だ。竿を握らしゃ日本一の。ダイワ。
色彩検定を取った今だとわかる。赤い袖、青いズボンという二つの基本色に、白いシャツというセパレーション。自然は緑や茶色が多いので、どうしたってトリコロールの三平が目立って見える。すばらしい色彩センス。
今年の春、増田まんが美術館を訪れた。名誉館長は矢口先生である。
矢口先生画業50周年を記念した本を書店で見かけた。「少年の夏」を収める。こうなることをわかっていたのか。
最近図書館で文庫本を借り始めた。
世紀のハンサムボーイ。郷土の誇りである。ご冥福をお祈りします。
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