« 1351 オンライン化する大学 飯尾淳 | トップページ | 1353 すき間の子ども、すき間の支援 村上靖彦・編 »

1352 村上春樹にご用心 内田樹

 図書館より。アルテスパブリッシング。

 村上春樹とは何を書く作家か。いくつかの骨組みがある。
 一つ。どこからかやってくる邪悪なものの存在に気づくセンチネル(歩哨)である主人公が、戦って世界を守る。
 二つ。不条理な目にあった主人公が、右往左往する中で世界のルールを見つける。
 三つ。非存在(人であれば死)に対面することで、存在(人であれば生)の意味を考える。

#村上春樹は(フランツ・カフカと同じく)、この地図もなく、自分の位置を知る手がかりの何もない場所に放置された「私」が、それでも当面の目的地を決定して歩き始め、偶然に拾い上げた道具を苦労して使いまわしながら、出会った人々から自分の現在位置と役割について最大限の情報と最大限の支援を引き出すプロセスを描く。

#食事の提供は「友愛のみぶり」であること、共食は生理的「共身体」の形成を目指していること、食事を一緒に食べることは一種の「舞踏」であり、同期的共生感をめざしていること。

#「村上春樹の文学のテーマって、なんでしょう?」
#いきなり学生にそう聞かれた。
#むずかしい質問だ。
#しかし、あらゆる質問に間髪を容れずに答えるのは大学教師に求められる重要な技能の一つである。
#「それはね、ヨシオカくん。『邪悪なものが存在する』ということだよ」

#村上春樹はその小説の最初から最後まで、死者が欠性的な仕方で生者の生き方を支配することについて、ただそれだけを書き続けてきた。それ以外の主題を選んだことがないという過剰なまでの節度(というものがあるのだ)が村上文学の純度を高め、それが彼の文学の世界性を担保している。

|

« 1351 オンライン化する大学 飯尾淳 | トップページ | 1353 すき間の子ども、すき間の支援 村上靖彦・編 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 1351 オンライン化する大学 飯尾淳 | トップページ | 1353 すき間の子ども、すき間の支援 村上靖彦・編 »