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1519 アラビア遊牧民 本多勝一

 図書館リユース文庫。ただであげるというサービス。朝日文庫。裏表紙にはブックオフの105円の値札が貼られている。

 あれは小学校だったか中学校だったか、国語の授業でアラビアについての比較文化の文章を読んだ。アラブにはラクダを表す単語が何十もあるとか、一次名詞と二次名詞の違いとか。しかし衝撃的な話はこれだ。ホテルの部屋を借りたが、鍵が合わない。丸く収めようと笑顔で「鍵が違いましたよ」とフロントに伝えたら。
「あなたが違う部屋番号を言ったのです」
 国語の授業なんて、善人とわかりやすい悪役しか登場しないと思っていたら、素でこんな人がいるのか。アラブ恐るべし。

 そして数十年後、原典を手に入れた。エスキモーやニューギニアの社会に入り込み、厳しい自然に耐え、住民の懐に飛び込む技術と胆力のある著者が、悪戦苦闘しているのがおもしろい。初日だけは社交的に「これもあれも食べろ」と接待されるが、それからはひたすらほぞをかむ思い。物は取られ、クルマは勝手に使われ、代金はふっかけられる。夜に寝っ転がって見る星空だけがなぐさめだ。

 解説は桑原武夫。著者が「桑原には思考の方法を学んだ」という京都大学の先輩であるが、桑原が「今回の取材は大変だったねえ」とねぎらっているように感じられて(さすがにそうは言っていない)ほほえましい。

#クウェート市の場合、昔は冬わずかに降る雨を屋根から集めたり、木造の“木のタンカー”でユーフラテス川の水を運んだりしていたが、石油生産にともなう急激な人口増加で、そんなことではとうてい間に合わなくなったため、一九五一年、ついに海水を蒸留する大工場を建設した。

#公然たる奴隷制度の国は世界でサウジアラビアが最後となっていたが、三年前から廃止されたため、今はベドウィンも使っていないようだ。奴隷といっても、貧困な自由人より豊かな暮らしをしていた者が多かったので、開放されたときは行き場がなくて困ったそうだ。結局月給取りとなってもとの主人のところに残ることが多い。奴隷もサラリーマンも本質的に同じだという証明でもある。
 アルスラーン戦記にこういう話があったね。

#だが、感情としては、早く切り上げたい気持でいっぱいだ。『カナダ=エスキモー』のイスマタたちや、『ニューギニア高地人』のヤゲンブラなどの名は、私たちだけではなく、読者もまた懐かしく思い出すことができるに違いない。だがアブヒダードのベドウィンと別れる今、私たちは「懐かしく思い出しうる」ような人間を、ついに発見することができなかった。

#驚くべき違った人間とは、正確には「驚くべき違ったカルチュア」であって、その違うカルチュアの中に、それなりの偉大な人格や卑小な人格があるのだ。
 たまたまわるい人たちに当たったわけではない、と言っている。

#『アラビア遊牧民』は、本多独特の家庭密着戦術がとれないためもあって、人間の幸福がみずみずしく描けていないつらさがある。
 桑原武夫の評。

 アラビアの砂漠地帯では水や食料が乏しい厳しい生活を強いられるので、簡単に責任を認めて謝ったり、感謝の言葉を述べてはいけない、ということらしい。

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