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1538 ナマズの丸かじり 東海林さだお

 駅前本屋より。文春文庫34番。表紙はナマズとなまずひげのおじさん。

 東海林さだおはイチゴに砂糖と牛乳をかける食べ方を何度か記述しているが、これがもっとも古い記録と思われる。単行本は1991年。
#イチゴ色に染まってイチゴの味がしみ込んだ、甘くて冷たい牛乳が残る。
#これをこのまま、両手で持ち上げて、皿に口をつけてゴクゴクと飲む。
#これがおいしい。このゴクゴク飲みがおいしい。
#コップなんかにあけて飲んだりしてはダメで、皿に口をつけて飲むのがおいしい。
#イチゴをつぶさないと、“イチゴ色に染まってイチゴの味がしみこんだ牛乳”を作成することができない。
#つぶさず派は、このおいしさを知らずに死んでいくことになるのだ。ヤーイ、ヤーイ。
(イチゴ白書)

#ラーメン丼のふちギリギリまで張られた醤油味のスープ。そのスープの中に、漂うがごとく、ひそむがごとく見え隠れしている細打ちのちぢれ麺。周辺に脂の層を一筋走らせた厚切りの焼豚。醤油色に染まって行儀よく並べられたメンマが五本、おや、はじの方にはぐれメンマがもう一本、いまのせたばかりらしい海苔が周辺から湿り始めている。
#所を選ばず出没する刻みネギたち。
#スープの上でキラキラと漂うメダカのコンタクトレンズのような無数の脂。
#立ち昇る湯気には梘水の匂いさえ感じられる。
 名文! 「梘水」はかんすいである。(ラーメンのサンダル現象)

#「このおそば、なぜ、いたちっていうんですか」
#おばさんは少しおびえたような目になり、
#「ホラ、きつねとたぬきがいっしょだから……」
#と言って逃げるように奥に引っこむのだった。
 いたちそばの正体は油揚げと揚げ玉であった。(いたちそば)

*雪の味つーのは押し入れの中のホコリみたいな味しません?
 雪の核の味だろう。

 解説は中国文学者、エッセイストの高島俊男。「合格弁当」の一節を引く。
#特に一橋に関する解説は立派であった。
#「ひとつ、バシッと決めるときにトンカツである」
#どうです。
#万人を、思わず首肯させずにはおかない説得力があるではありませんか。

#「深く首肯する」という本来かたい感じの表現を、諧謔的の文章のなかで用いて「ズレのおかしさ」を演出するのは、太宰治が編み出した技法だったのではないか、と思う。

#二十世紀日本の文章の天才をたった一人あげろ、と言われたらわたくしは「太宰治」と答えるに躊躇しない者であるが、それにつぐのはあるいは東海林さだおではないか、と思っているくらいである。

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