1541 ショージ君の東奔西走 東海林さだお
駅前書店より。文春文庫177-8番。表紙はコンパス模様の上を歩いている著者。つぶらな瞳、たらこ唇、四角い輪郭だからまちがいない。髪を伸ばしているのが時代である。320円。
巻頭を飾るのは「大リーグ観戦記」。昭和52年といえば1977年だ。シアトル・マリナーズのキングドームとドジャースのドジャースタジアムを訪れる。珍しいことに、口をあんぐりさせて驚いている著者の写真を拝むことができる。
体の大きさや強肩、俊足に驚く。背広男が「レディーズ・アンド・ジェントルメン……」と進行を務めることを面白がる。試合がだれるとそれより観客同士の喧嘩に目が行く。
#日本の球場のグラウンドボーイは男だが(あたりまえかナ)この球場ではグラウンドガールある。なかなかの美人でショートパンツをはいている。これが人気のマトになっているらしく、テレビカメラはこの子をしょっちゅう映し出す。
「かナ」「マト」なんていわゆる昭和軽薄体の文体である。
「食ったぞ! 満漢全席」ではテレビの企画で小林亜星やすぎやまこういちらと香港にアゴアシ付きで招待される。
「南の島でハブキモコ」ではYS11に乗って徳之島(奄美大島の近くの島)へ向かう。ハブキモコとはハブの肝の粉、のこと。
#発車を待ちつつ、眼前を通り過ぎるそういうたぐいのご婦人方のそのあたりに視線を走らせることになる。
#「そのあたり」には二種類あって、タンクトップのあたりと、ショートパンツのあたりということになる。
イラストでは女性を見て「ワリクナイノネ」と喜んでいる。
「秋の遊園地・運動会」には風俗の記録としての意味がある。豊島園ではその日五つの団体による運動会が開かれていた。会社や組合のそれだ。飽きたショージ君はローラースケートを始めてしまう。
「ああ、花の文化祭」では日本女子大学と思われる女子大の文化祭で焼きそば屋台の女子大生に声をかけられて喜ぶ。
このプログラムに価値がある。
水泳部は泳いでみせる。デンマーク体操部とはなにか。卓球部が「お相手します」。言語科学研究会が女性のことばについて解説する。速記研。歌舞伎研。相撲研究会はちゃんこを作っている。
「悪女に悪戦」では『知的悪女のすすめ』をものした小池真理子と対談する。
「ワカサギ釣り氷地獄」では話題の新兵器のラビットという兎の糞につくミミズのような餌で挑戦するが、テントはなく寒さに「アウアウ」言い結果はボウズ。
解説はなく、「東奔西走 往来頻繁 全力疾走 流汗淋漓…」という教養の高さで圧倒する「あとがき」がある。
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