1545 村上春樹クロニクル BOOK1 2011-2016 小山鉄郎
図書館より。春陽堂書店。表紙は顔にあざをつけた青年。『ねじまき鳥クロニクル』だ。
村上春樹は自分の作品の解題をしない。著者はその代わりに自由自在に解釈を当てはめる「妄想派」とでも言うべきか。
レイコは霊魂であり、牛河は牽牛であり、中央線は惑星直列である。青は歴史の色で、緑は、なんだっけ。
同じ知識量を持つ「村上主義者」の友達とそんなことを言い合えたら、楽しいだろうなあ。
#レイコさんは「僕」に会いに来るとき、ツイードの上着と素敵なマドラス・チェックの半袖のシャツを着てきます。それらの服装はすべてが死んだ直子のものです。
*亡くなった人で、記憶に深く残っている人は、自分がこれまで生きてきたなかで、とても大切な人だからです。そういう大切な記憶、大切な人と対話することで、人は成長していくのです。
*「四国」は村上春樹にとって「死国」です。高知県出身の作家、坂東眞砂子さんの小説で、「死国」という四国霊場巡りの作品もあるくらいです。つまり「四国」は「死者の世界」「霊場の世界」であり、村上春樹作品の中では、その世界への「入り口」が香川県であり、高松なのです。
#「牛河」は「牽牛」の「牛」と「天の河」の「河」を合わせた名前となっています。
#「Norwegian Wood」の最初のタイトルは"Knowing She Would"というもので、彼女が性的な関係をOKであることをわかっているよという意味の言葉だったのだが、そのままではヤバイので、ジョン・レノンが即興で"Knowing She Would"を語呂合わせで「Norwegian Wood」としたらしいというのです。
ジョージ・ハリスンのオフィスに努めている女性から、村上春樹が聞いた話。
#一九七〇年ごろ、村上春樹が新宿の小さなレコード屋でアルバイトをしていると、歌手である藤圭子さんが一人で店に立ち寄って「あの、売れてます?」とアルバイト店員の村上春樹に尋ねた場面があります。
#ありのままを言えば、ぼくはつまらない人間だった。値うちのない人間だった。ある意味では僕は、自分で自分を駄目にしてきたんだ。今となってはそれがよくわかる
天吾の台詞。沁みる。
#「渡る」とは海を「わたる」こと
『女のいない男たち』は海の物語。芦屋の海を思い浮かべているのだろう。
「ドライブ・マイ・カー」の女性運転手は「渡利みさき」。「おそらくそれは永遠に理解されないままに終わってしまうだろう。深い海の底に沈められた小さな堅い金庫みたいに。」というフレーズもある。
「独立器官」の外科「渡会」も「渡海」に通じる。
「木野」にも「木野は海図と怒りを失った小舟だった」という一節がある。
『1Q84』はワーグナーの「ニーベルングの指環」。
青豆はワルキューレ。天吾は兄ジークムント。ふかえりは妹ジークリンデ。青豆の親友は環(たまき)。
#おれは傷つくべきときに十分に傷つかなかったんだ、と木野は認めた。
長編映画『ドライブ・マイ・カー』のあの台詞は、「木野」からだったのか。うまくくっつけたものだ。
「かえるくん、東京を救う」には「私よりもっと強い人はほかにいるでしょう。空手をやっている人とか、自衛隊のレンジャー部隊とか」という片桐の台詞がある。『1Q84』ではその二つが出てくる。リーダーのボディーガードは空手をしていて、タマルは元自衛隊のレンジャー。わざとなのか、そればかり思いつくのか。
*闇の中で自分と異なる多くの者に出会うことは、恐怖の体験でもあるでしょう。でも、そのものの姿をよく見ないうちに、見知らぬものに抱く恐怖から、相手を抹殺していたら、新しい世界はやって来ません。我々は恐怖を超えていかなくれはならないのです。
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