1536 鯛ヤキの丸かじり 東海林さだお
文春文庫37番。表紙は鯛ヤキと両手を握って左目から涙を流しているロングヘアの女性。
初っ端の「桜桃、応答す」が名作である。
#丸くて可憐で赤い果実に、突き刺さるような薄緑色の細くて長い柄。
#完結したデザイン。実在するメルヘン。エンゼルの玩具。
#あの柄は、もう一センチ長くてもいけないし、五ミリ短くてもいけない。
#柄も言われぬ絶妙なその長さ。
もちろん「柄」は著者の技巧。
#あの柄の先端を指先で持った人は、必ず一度はプラプラと揺すってみる。
#そうせずにはいられないのだ。
#そうしない人は人間じゃない。
#両雄並び立つ
ただ、ラーメンとライスがあるだけの絵にこの書き文字。天才。(「偉業としてのラーメンライス」)
「豚汁の怨念」も名作である。題名こそおどろおどろしいが、豚汁の甘さを的確に指摘している。
#豚汁という語感もいい。
#特に下半分の、ジルという発音のジル感がいい。
*それら(里芋・ごぼう・じゃがいも・人参・玉ねぎ)が、豚の脂と溶けあって、どこでどうからみあったのか不思議なミルキーな味になっている
#一個の桃に、果汁は一〇〇%以上はないはずだが、一二〇%ぐらい含まれているような気さえする。
出た、名言。(「桃汁娘」)
#「海老の擂り身団子とアワビのクリーム煮」などが自分の前に出ると、アワビも団子も明らかに一人前二切れなのに、「ぼく、海老が嫌いで取らないから、そのかわりこっちを」などと言い訳しつつ、アワビの方を四切れも取ったりする。
#そういう問題じゃねーだろッ、と、“最後の人”は、もう気も狂わんばかりに逆上しているのだが、表面はオットリと微笑んでうなずいたりしている。
「回るテーブル」より。
#この内径は、これ以上大きくてもいけないし小さくてもいけない。
「ビンの牛乳」より。
解説は野村進。
#「“顔の雑巾がけ”」。
#私は椅子から転げ落ちそうになったが、思わず「すごい表現だなあ」とうなったのである。
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