カテゴリー「書籍・雑誌」の1000件の記事

9 昼メシの丸かじり 東海林さだお

 文春文庫。
 この「丸かじり」シリーズは雑誌連載時よりも、文庫になってからがおもしろいと思うのはなぜだろう。

 ドッグイアー。

#おじさんの同年の友人で、胃を全部取ってしまった人がいた。
#胃が無いので、一度にたくさんの食べ物を食べることができない。
#ときどきキャラメルを口に入れたりして、ちびちび栄養を補給することになる。
#おじさんは泣いたよ。
#キャラメルの箱に泣いたよ。
#キャラメルの引き出しに泣いたよ。

#タンメンは絵としてメリハリがない
(イラストの書き文字)

#(注・厚切りトーストに対して)それに比べて1センチトーストの何とヘナヘナであることか。
#何という貧寒。何というしお垂れ。
#何という腰抜け。
#この、バーカ、と言ってやりたい。

#カイワレをいじめるな
(タイトル)
 うまいなあ。


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8 航海術 茂在寅男

 副題、海に挑む人間の歴史。中公新書。お名前は「もざい・とらお」と読む。

 お勧め。
 初版は昭和42年で、私が生まれる前だ。なんせ著者は大正3年生まれ。
 筆致は軽快で迷いがなく、船乗りのロマンティシズムをも感じさせる。
 沿岸航法、推測航法、天文航法、電子航法と進んできた人類の歩みを明確に述べる。大航海時代、バイキングはもちろん、遣隋使、コンチキ号(ヘイエルダール博士だよ)、ジョン万次郎も出てくる。海の男オールスターという風情である。

 個人的になるほどと思ったのは、緯度を計るのは比較的容易だが(北極星でわかる)、経度を計るのに人類は苦労してきたという点だ。

 ドッグイアー。

#平清盛は日宋交通に期待をかけ、宋船を博多からさらに国内に来航させるため、福原の近くの兵庫に築港した(ほどである)。

#彼ら(注・蒙古軍)はまず壱岐島を荒らしたが、その残虐性は想像以上だった(ムゴイという言葉はこの時の蒙古から転じたと言われている)。

【付記】2007年現在、ご存命のようである。びっくり。
 「言語学のお散歩」の金川先生のページにも登場する(金川先生は富山「商船」高等専門学校の先生だからね)。

【2025付記】
 「言語学のお散歩」サイトはなくなってしまった。手元に『ライ麦畑のキャッチボール』『おいしい日本語』がある。『脳がほぐれる言語学』を読んだ記録はあるが、本棚のどこかにある(見つからない)。

 茂在寅男先生は2013年5月31日に亡くなっていた。日本初のヨットで出身地の筑波から東京湾まで航海したり、東京商船大学の歌を作ったり、元寇の遺物やチチカカ湖を水中調査したり、伝説の人物である

 残念ながらこの本は楽天には出てこないようです。


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7 プロ野球ビジネスのしくみ 小林至&別冊宝島編集部

 宝島社新書。

 腰巻きには「プロ野球の真実を語った唯一の書」「球団経営の実態はここにすべて書かれている」「球界の大変革期に迫る超ド級の内部報告!」とごたいそうだが、内容は大したことはない。
 福岡ダイエー社長(当時)高塚猛、オリックスが阪急を買ったときのC氏、オリックス・ブルーウェーブ球団社長(当時)岡添裕らのインタビューが軸だ。

 ただ相手が悪かったのか、著者が負けている印象。インタビューの途中で、
「それより、小林さんは将来何をやりたいのですか? プロ野球経営に携わってみる気はありませんか?」「実際ウチに来て勉強してみればいいと思いますよ」「本当にどうですか、やってみませんか?」
と煙に巻かれている。

 高塚は、ユニフォーム組から総すかんを食ったことは、知っている方は知っているであろう。
 秋山幸二を大減俸した。工藤公康に「君の投げる火曜日は客が少ない」と言った(後にFA)。空気を読まず知り合いをグラウンドに入れ、選手・監督(王さんだ!)と記念撮影をさせる。怪我をしたときの扱いの悪さに小久保裕紀が放出を望み、巨人に無償トレードとなった。
 さらに女性社員の口に舌を入れ、「スキンシップだ」と強弁する。強制猥褻で懲役三年、執行猶予五年。どうみても犯罪人。そもそも自著をホテルの全室に置かせるようなメンタリティの人間がいいわけがない。

 そんな人に著者は「田中角栄元首相がそうでしたが、カリスマによって人をぐいぐい引っ張る指導者に共通するのが、大胆なたとえと数字を織り交ぜた巧みな演説です。高塚さんもそんなカリスマ指導者でした」と絶賛している。

 たぶん著者としては早くなかったことにしたい本ではなかろうか。

 ドッグイアー。

#(一般の経営とプロ野球の違いを聞かれて・高塚)違いを探して何になるんですか? 一緒だということで共通に使えるものを導き出して活用した方がよっぽどいい。(略)何で「(略)いいお天気ですね」って言うんですか? (略)それはそのことを言うことによって同じ思いをする、次のコミュニケーションを図るというのが大前提にあるんです。


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6 日本人に一番合った英語学習法 斎藤兆史

 副題、明治の人は、なぜあれほどできたのか。祥伝社黄金文庫。

 小学校からの英語学習が、ときどき話題になる。アジア各国で実績を上げており、臨界期説の立場からも薦める肯定派。まず母国語を学習することが第一で、これまでの中学校からという立場を守る否定派。著者は後者である。
 会話重視、訳読軽視の現状に、大きな怒りを表明しているように思える。
 だが著者のパーソナリティか、冗談のオブラートに包んでいるところが大人だ。

 新渡戸稲造、森有礼、津田梅子、神田乃武(知らない人は知らないだろうが、その道の人で知らなかったらモグリだ)、南方熊楠、小泉八雲らの例を挙げている。
 『英語達人列伝』に比べると、マイナスの例を引いているところに気付く。津田梅子は、帰国したときには日本語を忘れていた。ラフカディオ・ハーンは、あれほど日本への関心が高かったにもかかわらず、日本語の著作がなく、ぎこちない言葉は「ヘルンさん言葉」と呼ばれていた。それほど外国語学習は難しいのである。

 ドッグイアー。

#私が反対している「コミュニケーション中心主義」とは、あくまでも「実践的コミュニケーションの育成」の名の下に行なわれている、文法軽視(あるいは無視)の低級な「英会話ごっこ」である。

#日本語と英語がお互いにとって極めて異質な言語である以上、日本人が文法や読解の訓練もなしにいくら「実践的」な会話を練習したところで、低級なピジン英語になるのがオチである。日本語と西洋語の訓練を見極めた外交語学のプロ集団・長崎通事たちは、子供にまず文法と素読を仕込み、それが済んでから、初めて出島のオランダ人のところに出向かせた。

#もしも高度な英語力を身につけたいであれば、(たとえば「ペラペラ」、「スラスラ」、「スイスイ」、「簡単」、「~週(~ヶ月)で身につく」といった言葉を表題に掲げて)英語学習の容易なることを謳っているような語学書や英語教材は、敬遠するに越したことはない。

 まあでもこのような書き方だと「できるからって」と言われがちなのです。
 なんとかこの見識高く、軽妙な筆致の先生を応援したいと考えています。 


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5 「やる気」を起こす心理学 富田隆

 三笠書房。副題、”誉めて動かす”54の即効・心理技法。

 もう副題がすべてを語っている。とにかくほめればいいのだ。
 頭で考えたような54のシチュエーションの中、H君やK子さんに対して、どういう言葉かけをすればいいのか、中途半端な三択問題。

 問題を出しておいてどれが正解と言うともなく、「ほめるということは行動を強化する」の繰り返し。「オペラント条件づけ」「ハロー効果」など、心理学の初歩である。

 本としては退屈だが、内容はまったくその通り。近頃の世の中は、他人の足を引っ張り、相手を非難して裁判で金を取ることが増えてきた。
 やはりお互いのいいところを褒め合うような人間関係でありたいものです。

#「ま、いいか」と思った瞬間から部下の心は離れていく

#初対面の人を〝とりこ〟にしてしまう心理トリック!
#「なんでもいいから、相手を誉めることですよ。ほめられた人は悪い気がしませんから、自然に向こうから話をしてるようになります」
#では何を誉めるかということになろう。そんな場合は、相手に最も近い大切なものやプライベートな情報から誉めるものを見つけるのだ。
 名前、家族、趣味など。


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4 短編小説のレシピ 阿刀田高

 何がきっかけだったか、学生時代に著者の本をいくつか読んだ。端整な文体と、確かな教養、そこはかとない色気、けだるい雰囲気が好きだった。ただいつの間にか、けだるさがゆるさに感じられて、読まなくなった。
 著者の本を買ったのは、10年ぶり、いやそれ以上だろう。

 向田邦子や、松本清張、中島敦、そして夏目漱石らの作品を引き、おもしろさを語る。「自分の作品はここからアイデアをもらった」と正直に語っているのがおもしろい。
 また、著者が子供のころは芥川龍之介と落語を読んでいたことが、私と共通しているのがうれしい。

 ドッグイアー。

#まだ書き慣れていない小説家志望者が、
「短編小説のアイデアって、どこで見つけるんですか。探してもなかなか見つからなくて」
 と嘆くときは、彼の中にこの工房ができていないから。工房の工作機械がまだ貧弱なので自分の工房で加工できる見通しをもって素材の海を見ることができないからなのである。

#日本におけるショートショートは、
 まず始めに星新一が在った。しかる後にショートショートが存在した。この逆ではない。

#ショートショートの定義は、とても短い小説、これ以外には言いようがない。”とても短い”は四百字詰めの原稿用紙で十五~二十枚くらいまで。そして小説という以上、文学にふさわしい描写で綴られ、短いながらモチーフを備え、ストーリーをもっていることが肝要だろう。


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3 コーヒーが廻り世界史が廻る 臼井隆一郎

 中公新書。副題、近代市民社会の黒い血液。

「コーヒー? モカでしょ、キリマンでしょ、ブラジルがすごいんでしょ」という気持ちで読み始めたら、その歴史のごつさに戸惑う。

 アラビア世界では、儀式の眠さを払い、神に近付くために飲んだ。
 ロンドンのコーヒー・ハウスは、社交、取引、情報交換、世論形成の場であった。
 モンテスキューはコーヒーを「理性を明朗ならしめる飲料」「人間を快活にし、その苦痛の思い出をまぎらしうるような飲料」と呼んだ。
 ナポレオンはフリードリヒ大王のプロイセンへのコーヒー出荷停止を命じ、プロイセンではフランスへの反感が高まった。

 などなど古今東西の世界史知識が問われる。著者はドイツ文学が専攻のようであるが、その教養には参ったの一言だ。
 コーヒー好きにはお勧めの一冊。

 ドッグイアー。

#「ビール」という名称は、「飲む」を意味する世俗ラテン語(boire)に由来するという説がある。

#……パリには紅茶ブームが生じ、多くのカフェは「ビストロ(Bistro)」に名称を変える。これはロシア語のブイストラ、すなわち「早く」を意味する言葉で、出入りするロシアの軍人に紅茶を早く出すことから来た名称である。

#……こうして1808年から14年間、リオ・デ・ジャネイロが(略)ポルトガルの首都となったのである。
 なんのことだと調べてみた。ポルトガル王家がナポレオンに追われてこの地に避難していたのだ


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2113 かんたん漢方 佐藤弘

 図書館より。成美堂出版。副題、身体と心の不調がなくなる。

 ページを開いて目に飛び込んでくるのは『「漢方=漢方薬」ではありません!』の一文。薬だけではなく、食事や生活、運動、ツボ押しなど、様々な方向から未病を防ぐ。未病とは病気ではないがなんらかの自覚症状がある状態のことである。
 また、同じ症状でもタイプを分けて考える。たとえばかぜであれば、「汗をかかないタイプ」「汗をかくタイプ」「鼻水が出るタイプ」「症状が長引くタイプ」に分けて対処する。

*漢方薬のベースは桂枝湯。経皮+芍薬+甘草+生姜+大棗。
*桂枝湯+葛根+麻黄=葛根湯。
*桂枝湯+芍薬=桂枝加芍薬湯。
*桂枝湯+小柴胡湯=柴胡桂枝湯。

*花粉症 「大椎=だいつい=」を押してアレルギー症状を撃退; 頭を前に倒したときに、首の後ろで一番出っ張っている骨のすぐ下のくぼみにあるツボ。

*疲れ目 「攅竹=さんちく=」を押して目の諸症状をやわらげる; 左右の眉毛の目頭側の端のくぼみにあるツボ。

*せき 呼吸器系の症状には腕の「尺沢=しゃくたく=」を押す; ひじを曲げたときにひじの内側にできるシワの線上の、腱の親指側にあるツボ。
 なんでこんなのわかるのだ。せき→ひじ。

*腰痛 加齢や疲れからくる腰痛には「腎兪=じんゆ=」; おへその裏側にあり、ちょうどウエストのくびれ部分の背骨から指2本分外側にあります。

*頻尿 「曲泉=きょくせん=」を押して肝のはたらきを助ける; ひざの内側にあり深く曲げたときにできるしわの内端。


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2 これがビートルズだ 中山康樹

 講談社現代新書。表紙がクリーム色のころだ。このデザインの方がいいと思うが。

 結論から言えば、ファンなら必携の一冊。正確にはファンになって、もっとほかの曲も知りたいなあと思うころに最適。公式曲全213曲について、それぞれ1ページの解説がされている。

 筆者がビートルズを愛しているのがわかる。
 世界最高のおねだりの声を持つポール。ササッと名曲を書くポール。ジョンやポールが抜けてもビートルズは成り立つが、彼がいなければ成り立たないと言わしめたリンゴ。名曲の打率が高いジョージ(サムシングとヒア・カムズ・ザ・サン。ミシェルもかな)。

 また文章がぞくぞくする。こんな書き方があったのか、というくらい。それは下の「*」を見てください。

 ドッグイアー。

*ポールはオノ・ヨーコと会ったそのときから違和感を抱いていた。想像だがそうに違いない。この日には三曲のレコーディングが行なわれたが、最後の《コンティニューイング・ストーリー・オブ・バンガロウ・ビル》が始まる前に帰ったのではないか。いや、これもまた想像に過ぎないが、普通の人間であれば帰って当然だ。ヨーコにいたっては短いながらリード・ヴォーカルまでとっているのだ(!)。しかも、「ジョンが歌えって言うんだもの」だとお(想像だが、スタジオ内でこのような恐れを知らぬ発言があったと思われる)。


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1 情報と国家 江畑謙介

 副題、収集・分析・評価の落とし穴。講談社現代新書。

 もう16年も前になるが、湾岸戦争のときその独特の髪型で脚光を浴びた著者。その著作を読んでいると、その頭の外側でなく内側こそ傑出している。まず序論で、日本語で一般に「情報」と呼ばれているものの三段階を示す。

1)データ …… 個々の現象や数量。
2)インフォメーション …… データを集め、種類ごとに分類したもの。
3)インテリジェンス …… インフォメーションを分析、評価したもの。

(私としては1と2だけで充分だが。)

#湾岸戦争のとき、「BABY MILK PLANT」という手書きの看板の前で、イラク人女性が「こんなところで爆撃なんて」と英語で多国籍軍の非道を訴える。

#今回のイラク戦争で、ブッシュ政権は攻撃を正当化する情報を求めた。そこに組織の弊害が加わる。上司が「情報がないだと。調査不足だ。もっとしっかりやれ」と言うと、部下は上司の気に入る情報だけを持ってくるようになる。
 
 後書き「おわりに」にこうある。
「本書の執筆に当たっては、資料、図版の準備に妻、裕美子の助けによるところが大きい。その意味では本書は彼女との共著と称し得るものである。末尾を借りて、裕美子に感謝の意を表したいと思う。」
 このように妻への愛情を堂々と書ける美点は、もっと真似されてよい。

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 一時期、書評(読書感想文)をgoo blogに書いていた時期があったが、goo blogは2025年11月28日にその使命を終える。書評は180本くらいある。なくなるのもなんなのでココログに再掲します。

 ちなみに娘ポーシャが生まれるとき、病院の待合室で読んでいた本はこの本です。江畑謙介さんの御本を読んで、家族を下手に謙遜せず尊重すること、家族に謝意を伝えることを恥ずかしがらないことを学びました。

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 goo blogで書評を始めるときに、こんな文章を書きました。

 書評のページを、4年ぶりに始めることにしました。
 なんて私はあくまでも素人ですので、変なところも偏ったところもあるでしょう。
 ただすでに読んだ人に共感してもらえたり、これから読む人にきっかけになってくれればそれに過ぎたるはありません。あとは自己満足ですね。
 一つだけ説明。ドッグイアーとは、dog earです。dog yearとは「成長の早い犬の年齢」ということですが、そうではなくて、文字通り耳の犬。私は自分の本を読んで心に残る部分では、ページの片隅を三角形に折ります。それがドッグイアー(借りた本でやってはいけません)。
 それではよろしくお願いします。(日本語の便利な挨拶)


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