図書館より。岩波科学ライブラリー。副題、生き物たちの奇妙な戦略。
敵(ここではクモ)に襲われると死んだふりをする昆虫がいる。動くものを追う習性のある敵は、死んだふりをしている昆虫よりも、ほかの動いている昆虫を狙うようになるからだ。
また研究者の苦労話がちょうどいいユーモアになっている楽しい本。
#さて、ここまでの結果をまとめると、「歩いているとき」「食べているとき」「動いているとき」「交尾したいとき」「お腹が空いているとき」「暑いとき」「大きく育てなかったとき」に甲虫は死んだふりをしにくい。一方、「休んでいるとき」「お腹がいっぱいのとき」「寒いとき」「大きく育ったとき」は死んだふりをしやすい。
#やはり昆虫には活動モードと静止モードがあり、いったん活動モードに入った虫は敵に襲われると走って逃げ、静止モードにある虫は死んだふりをするのだ。
#大学の先生になって初めて学んだことだが、学生が虫を飼う能力には実は大きなばらつきがある。どんな学生でも虫を絶滅させることなく飼えるというこの虫のメリットは、卒業生を預かる身としては重要なポイントだ。
コクヌストモドキ。
*死んだふりの定量観察キットを使って、コクヌストモドキのオス100匹とメス100匹の死んだふり持続時間をストップウォッチで測ったのは、僕の研究室に卒論を書くためにやってきた学生である。その中からもっとも長く死んだふりを続けたオス10匹とメス10匹、もっとも死んだふりをしなかったオス10匹とメス10匹を選んで交配させ、それぞれ子を産ませた。そして学生は産まれた子から再び、オス100匹とメス100匹の死んだふり持続時間を測って……
#コクヌストモドキは、確かに苦味を伴うメチルベンゾキノンという物質を体内に持つことが知られている。試しにこの虫を強く握ったりすると、なんとも言えない嫌なにおいが発せられる。
*(岡山大学農学部農芸化学コースの教授に)ベンゾキノンという物質を計測することはできますか? と尋ねたところ、なんと簡単にできると言ってくれるではないか。
#甲虫にカフェインを飲ませるには一工夫が必要だった。水にカフェインを溶かして脱脂綿にしみ込ませて与えてみたが、うまく飲んでくれない。そこで甘いショ糖にカフェインを混ぜて綿にしみ込ませて与えてみると、コクヌストモドキの成虫たちはその綿に頭を突っ込んで必死に飲んだ。
#ANTAMとはアリなどの小さな昆虫の歩行軌跡を記録するために、光学系の藤澤隆介博士(九州工業大)の水谷直久博士(京都産業大)が開発した装置で、昆虫用のトレッドミルシステムだ。この装置には球があり、その上に虫を乗せる。球の上には小型のビデオカメラが設置されていて、虫の動きに合わせて球の動きを付属のパソコンプログラムで制御している。
#研究資金をめぐって「選択と集中」が研究と教育のキーワードの一つになった。この考え方は研究の多様性を喪失させる。先の読めない未知の世界に向かって生きる人類にとって、多様な知を持つことこそが、いざというときに役に立つだろう。
#25年ものあいだ死んだふりの研究を続けていると、実際に人間の行動や医療の発展につながるかもしれないというところまで、死んだふりの研究は来た。最初はそんなことまでもはもちろん考えもせず、ただひたすら死んだふりの研究をし、その行動の意味を考え続けた。なぜ飽きもせずに続けられたのか? それは僕が本当に面白がって死んだふりの研究に取り組んできたからだと今になって思う。
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